児童虐待の現状

映画『風切羽〜かざきりば〜』6月22日(土)より全国ロードショー

日本における子ども虐待の現場を紐解く

千葉大学大学院 医学研究院 子どものこころの発達研究センター
特任助教 髙岡昂太(臨床心理士)

日本におけるこども虐待の現状

我が国における子ども虐待への対応は、欧米に比べて30年遅れていると言われます。虐待には、子どもに対して身体的に暴力をふるう「身体的虐待」、心理的に子どもを追い詰める「心理的虐待」、性的に暴行する「性(的)虐待」、そして育児を放棄するネグレクトの4つが存在します。

その子ども虐待は、平成23年度、児童相談所の虐待対応件数は6万件近くに及んでいます。市区町村の対応件数や警察統計も合わせると、虐待または虐待疑い件数は軽く10万件を超えていると考えられます。また悲しいことに虐待による死亡事例のニュースも後を絶ちません。なぜ、日本では虐待問題が増え続けるのでしょうか?

「虐待」と「しつけ」の違い

その一つの視点として、我が国では、「暴力」や「しつけ」の切り分けが未だに議論され続けていることを指摘したいと思います。既に欧米ではこの議論は司法の存在が台頭したことにより既に一つの決着をみています。

例えば・・・

子どもが道で知らない大人から殴られたら、それは暴行罪に当てはまり罪に問われます。ですが、子どもが自宅で知っている大人から殴られたら、それは身体的虐待と言われ、児童相談所は子どもの保護と加害者に行政措置として指導はできても、罪には問えません。

一方で、子どもが道で知らない大人から性暴力を受けたら、強制わいせつ罪、強姦罪が成立し、罪に問われます。ですが、子どもが自宅で知っている大人から性暴力を受けたら、性(的)虐待とされ、やはり児童相談所では子どもの保護はできても、加害者を罪に問うことはできません。

暴力を受ける子ども自身からすれば、身体的虐待も性(的)虐待も同じ「暴力」であるにも関わらず、それは大人の都合によって文脈を変えて語られているに過ぎないのです。

先進国における司法の存在

欧米では、子どもにとっての「暴力」は犯罪であり、警察・検察という司法機関が子ども虐待領域に台頭し、医療-福祉-司法の多機関連携ができて10年が経ったところで、子ども虐待の総数が確実に減ってきています。

ただし、養育者が虐待に至る背景や過程を丁寧に探る必要があり、すべての虐待ケースが罰せられれば良いわけでもありません。子育ての問題と虐待の問題は時に切り分けがたいことがたくさんあります。

そのためにも、子育てへの支援、虐待レベルへの介入、そして再発予防のための治療や支援といった各段階において、それぞれ違った役割を持つ各機関が連携し、地域の皆さんと一緒に子どもと親御さん達を支えていくことが大切なのです。

子ども虐待を巡る暴力の輪を止める

虐待を語る際に「世代間連鎖」という言葉がもちいられることがあります。世代間連鎖とは、虐待を受けた子どもは、親になったときに我が子に自分がされた虐待を繰り返すと言われる現象です。

ただ、世代間連鎖は虐待を受けた子どもたちの3分の1だったと言われます(Oliver,1993)。残りの3分の2の子ども達は例え過去に虐待を受けたとしても、その後の人間関係の中でなんらかの社会的な支援を受けられたり、他者との関係性の中で世代間連鎖を止める可能性を持っていたとも言えます。

しかしながら、この連鎖は、虐待を受けた子どもが親になったときだけに再現されるものでしょうか?結論から言えば、必ずしもそうではありません。幼少期に受けた暴力は、思春期頃に非行や家庭内暴力として形を変えて現れることもあるのです。

法律で既に、虐待に関して疑わしい状況があれば、通告する義務が課されており、我々はもはや虐待に無関心ではいられないのです。子ども虐待を巡る暴力の輪を止めるのは、今、ここに生きている私たちなのです。