プロダクション・ノート

映画『風切羽〜かざきりば〜』6月22日(土)より全国ロードショー

その4 サヤコとケンタが誕生するまで Part 3(テキスト/小澤雅人)

そして、撮影の四日前に最終リハーサルを行った。少しずつ僕のイメージするサヤコとケンタに近付いてきたが、まだ足りない。そこで、即興でとあるシーンを演じてもらった。
それは、仮に二人が同じ高校に通っていたとして、宿題を忘れた片方がもう片方に宿題を写させてとお願いする、というシーン。理由としては、二人の関係性を、脚本に囚われずに体感して欲しかったから。たしかに脚本に書かれていることがその映画の全てではあるが、僕はキャラクターに関しては、脚本の外でも生きていて欲しい。実体のない小説上のキャラクターではなく、一人の人間として存在していなくてはならない。

そういった即興を経て頭を柔らかくして、再び二人の出会いのシーンを演じてもらった。良くはなったが、それでもまだ違和感が残っていた。そこで僕は二人に「仮にここが高速道路の下で、 声を張らないとお互いの声が聞こえないという状況だったら?」と提案した。するとどうだろう。雑音を想像することで余計な思索が消え、相手の声に慎重に耳を傾け、自らの声を丁寧に相手に届けようとする二人がいた。これでかなりの手応えを掴んだ。

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それまでリハーサルはずっと会議室で行っていたが、今度は二人から、脚本の設定と同じように外で演じたい、と言ってきた。よし、積極的に自分の頭で芝居を考えるようになってきたぞ。そこはビジネス街だったが、二人とも人目もはばからず大声を出し、躍動するように演じていた。これはいける。そこで確信した。

脚本には二人で演じるシーンがまだいくつか残されていたが、最後の方のシーンはあえて全くリハーサルをしなかった。二人の関係性さえできていれば、後はもう大丈夫。

撮影本番では、僕は彼らにほとんど細かい指示を出さなかった。リハーサルで入念にキャラクターを作り上げ、あとは役を俳優に託す、というのが僕の演出スタイル。実際、僕の指示など不要なほど、彼らは完全にサヤコ、ケンタという難しい人物を自分のものにしていた。

僕と役者、一緒になって作り上げたサヤコとケンタという人間。二人とも架空の人物だが、そこに作り物のような張りぼて感は全くないと自信を持って言える。そんな二人の努力の成果を見に、是非劇場まで足を運んでいただきたい。

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